ドラコ×ジニー
グリフィンドールの新しいシーカーの噂を聞いた時、ドラコは危うくスプーンを取り落としそうになった。控え陣のパッとしないグリフィンドールチームだったが、まさかチームメンバーでもない未経験者を連れてくるとは思わなかったのだ。それも女子を。
早々と朝食を終え、大広間から飛びだしていくジニー・ウィーズリーを追うように、ドラコも急いでパンを口に放り込み、席を立った。
長い廊下をいく足は小さな背丈に似合わず、小鹿のように速い。ドラコは純粋に驚きを覚えた。からかうたびに涙目になって、うつむいてばかりいた女の子が、こんなに足が速いだなんて思わなかった。おっとりとした外見からして、運動は苦手そうだと思い込んでいたが、違ったらしい。いつしか本気になって走っていた。
角に曲がって彼女の姿が見えなくなる寸前、ドラコは声を張り上げた。
「ジニー・ウィーズリー!」
彼女は足をとめ、振り返った。声をかけてきたのが大嫌いな少年だと気づいたのか、不快そうな表情が浮かぶ。けれど、無駄だと思ったのか、逃げようとはしない。息を切らせて近づいていくと、ほんの少し身じろぎしただけで。
「聞いたぞ、お前がポッターの代理シーカーだって? 怪我しないうちにやめとけよ。ただでさえみっともない顔に傷がついて、見られなくなったらどうするんだ?」
「あなたなんかにご心配いただかなくても結構よ、マルフォイ」
はったと睨みつけるジニーに、ドラコはたじろいだ。おかしい。以前のジニー・ウィーズリーなら、ここで助けを求めるように周りを見回していたはずだ。今にも泣きだしそうに声を震わせていたはず。
「まさか、そんなことを言うためだけに追いかけてきたの? 用がないなら、あたし、いくから。高貴なミスター・マルフォイが、ウィーズリーくさくなったら困るでしょうし」
先日の彼女の双子の兄と友人への暴言を根に持ってるのだろう。ウィーズリーくさく、と皮肉を込めて言うと、ジニーはついと足を背けた。鞭のようにしなる尻尾髪を左右に揺らしながら、足早にいってしまう。
自分などまるで問題にしていないかのようなジニーの態度が、妙に気に障った。かまってやっているのに反応がなければ、つまらない。
大広間に戻ろうとしたドラコだったが、もう一度ジニーを振り返ってみた。しゃんと背を伸ばし、意気揚々と歩いていく後ろ姿――うなだれた小さな背が何処にも見えないのが、妙に寂しかった。