リドル×ジニー
「ねえ、トム……トムって、今【あの人】が何処で、何をしてるか分かるの?」
夢を見ているようなおっとりとした声で訊くジニーに、リドルは軽く笑った。
「僕は彼の切り捨てられた【過去】の一部だから。分からないよ。どうして、そんなことを?」
「うん。あのね、会えるなら会ってみたいなって思ったの」
冗談を言っているとは思えない。穏やかな表情のジニーを見て、リドルは不意に真顔になった。
「……ジニー、今のこの【僕】は君のことが好きだし、もう二度と君を殺そうとはしない。誓ってね。でも、彼は違う。君のことなんか何も知らないし、なんのためらいもなく君を殺すよ。断言できる。どうして、会ってみたいなんて思ったの?」
「【あの人】はトムの【未来】でしょ?」
「でも、【僕】とは違う。会いたいなんて思っちゃ駄目だ」
犯した過ちを赦し、何もかもを受け容れてくれたジニーが、自分に心を許しすぎたせいで分身に殺されるようなことにでもなったら…――【秘密の部屋】の床に横たわったジニーの白い顔を思いだし、冷たい感覚が背筋にまで這い上がってくるのを感じた。
ジニーはそんなリドルの様子に小首をかしげる。
「んー…、と、会いたいっていうよりは見てみたい……かな? 髪がフサフサしてるのか、それともハゲてるのか知りたくて」
「フサフサ……? ハゲ?」
突然話が飛んで、リドルは目を白黒させた。その言葉に何か他の意味があっただろうかと考え、黙り込むと、ジニーはぷうっと頬をふくらませた。
「あのね、うちのパパって若い頃はとってもハンサムだったのに、ハゲたらすっかりみすぼらしくなっちゃって……で、自分で結婚とかするなら、将来ハゲそうな人は絶対嫌だなって思ったの。だから、トムはどうかなーって思って」
きっぱりとそう言うジニーに、リドルはなんと言ったものか、答えに窮した。結婚はさておき、恋愛の対象として見られていたことは嬉しい……が、ジニーの設けたその基準はいかがなものだろうか。
「……えーと、ジニー、さん。僕がっ……じゃなく、彼がその……ハゲてたら、そのぉ」
豊かな髪を撫でながら、しどろもどろに言うリドルに、ジニーは飛びっきりの笑顔をつくってみせる。
「ずっといいお友達でいようね、トム?」