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ビル×トンクス

「ハーイ、ビル」
 振り返ると、すぐそこに自分とそっくり同じ赤毛の女性が立っていた。ビルは茶目っ気たっぷりの顔を覗き込み、微笑み返す。
「やあ、誰かと思ったらトンクスじゃないか。久しぶりだ、ホグワーツを卒業して以来だな。元気だったかい?」
「うん、元気元気ー。そっちはどうだった? エジプトの暑さにバテなかった?」
「最初の一、二年はつらかったけど、もうすっかり慣れたよ。君は? 今年こそ闇祓いの資格は取れそうかい?」
「やあね、もう一年も前に取っちゃったわよ!」
「君が隠密追跡術も受かったって? あの、ドジな君が!?」
 大げさに驚いた素振りを見せると、トンクスの顔がみるみるうちに赤らんだ。
「また馬鹿にして!」
「冗談だよ。おめでとう、トンクス。夢が叶ったじゃないか」
 姿かたちを自由自在に変えられる七変化の彼女は、表情も豊かだ。からかうと子供のようにしかめっ面をし、かと思えばすぐに照れくさそうな顔になる。感情をそのまま顔に映しだす。そんな彼女の何処か幼く、素直なところが好きだったのだとビルは思いだした。
「そっ。昔からの夢だった……悪い奴をやっつける正義の味方になること。まだこれからだけどね、大変になるのは。
 そうそう、私、ジニーに会ったわよ。あのオチビちゃんがすっかり大きくなっちゃって。美人になったわね。変な虫がつかないか、お兄ちゃんは心配でしょ?」
「もうすでに、さ。彼氏ができたって手紙に書いてきた。ハリーなら安心できたんだけどな」
「ビルの彼女はどんな娘?」
 唐突なトンクスの質問に、ビルは目を見張った。知られて困るわけではない。けれど、もう彼女が知っているとは思ってもいなかったのだ。トンクスはニッと悪戯っぽい笑みを浮かべる。
「不機嫌そうだったよ。ビルに好きな人ができたみたいって。ジニー、昔からビルのこと大好きだったもんね。
 ね、覚えてる? 私がビルとつきあってるって知った後、ジニーったらドアの前で通せんぼして私を中に入れてくれなかったのよ。『あたしのおにいちゃんをとらないで』って。ビルのうろたえた顔を見たのなんか、初めてだった」
「妬いた?」
「ううん、全っ然。なんか、もうジニーが可愛すぎて、そのまま何処かに連れ去りたいなーとかは思ったけどね」
「君はつきあってる間も、俺が他の女の子達と話してても無関心だったもんな」
 溜め息混じりのつぶやきに、トンクスは声を立てて笑った。
「今さらそんなことを。なあに? もし私がヤキモチ妬いたら、もうちょっと長くおつきあいしていた?」
「さあねえ。君の保護者役はなかなか疲れるからな」
「それは残念。ビルよりもっと落ち着きがあって、包容力がある素敵な恋人を見つけるとしますかって……ああ! やっばい、マッド-アイに外の見回り頼まれてたんだった、忘れてた! じゃね、ビル、また後でッ……て、わ!!」
「バッ…――」
 自分の足にもつれてつんのめったトンクスをすんでのところで抱きとめた。じわりと汗がでた。
「相変わらずドジだな……大丈夫かい?」
「……相変わらず優しいね、ありがと」
 そっと腕の中から抜けでると、トンクスは玄関ホールへと向かっていった。歩くごとに左右に揺れていた長い髪が、不意に短くなり、暗い青の変色した。
 ビルは彼女と、そして自分の手とを順々に見た。握りしめた手の中には、まだトンクスのぬくもりが感じられた。