諍い - 2/6

ドラコ×ハーマイオニー

 久々に二人っきりで会えたのに彼女は分厚い本を眺めたままだった。わざとらしく咳をしたり、目につくようにもぞもぞ身動きしても頑なに目を上げようとしない。徹底的に僕の存在を無視している。
「なんか……怒ってないか、ハーマイオニー?」
「ええ。鈍感なあなたにもようやく分かったってわけね」
 下を向いたまま彼女は言った。
「ちょっと待てよ。君を怒らせることをした覚えはないぞ」
「自分の胸に手を当ててしっかり考えても?」
 ようやく顔を上げて、僕を見た。見たというよりは睨みつけたと言った方が正確だ。マクゴナガルも顔負けの迫力だ……杖を片手にちらつかせる父上といい勝負かもしれない。
「……昨日君をその、いつもの【あの言葉】で罵ったことを言ってるなら」
「違うわよ。皆に黙ってつきあってるんだから、いがみあってるフリをしようって言ったのは私なのよ? 怒るわけないでしょ」
 彼女はつんけんしたまま言った。確かに。【あの言葉】はもう何度も言っているわけだし――もちろん誰かの目がある時は、に限るが――今さらすぎる。
「えーと。じゃあ、ポッターの奴から減点したことか? だって、あいつの髪の毛ボサボサで見てられなかったんだ……」
「私に対する当てつけ?」
 彼女はふわふわの髪をサッと後ろに払いのけた。失言だ。髪は彼女のコンプレックスだった。まだ仲が悪かった頃、僕が散々馬鹿にしたせいだ。ひやっと寒気が走った。
 彼女はバンッと机を叩いて立ち上がった。怒ると頬が紅潮して、いつも以上に生き生きして見える。
「パンジー・パーキンソンと二人っきりで温室にいったんですってね」
 唐突に切りだされて、面食らった。
「あっ……ああ、それが?」
「本当に鈍感ね! まさにそれよ、私が怒ってるのは!!」
 ハーマイオニーは苛々と叫んだ。彼女らしくもない。ここが図書館だということもすっかり頭から抜け落ちているようだ。
「薬草学の復習につきあってほしいって言われただけだよ。パンジーと何かあるわけないだろ。彼女とはただの幼なじみなんだから」
「パーキンソンがあなたのことを好きだって知ってるくせに。一年生の頃からあなたの後ばかりを追い回していたっていうのに、まさか知らないわけじゃないでしょ。あなたの歩いた後の土まで崇め奉っているっていうのに」
「パンジーのことをそんな風に言うなよ。君だってウィーズリーの奴に好かれてるだろ」
「私はロンと二人っきりで何処かにいったりしません!」
 彼女の不機嫌がこっちにまで伝染してきた。胃がムカムカする。こっちはなるべく不愉快なポッターやウィーズリーの話題はださないように努めてるっていうのに。
「はっ、どうだかな。仲よく監督生に選ばれて以来、二人っきりになる機会なんて山ほどあるだろ。深夜の校内見回りとはいい特典だねえ、空き教室にしけこむのだって簡単だ」
 ハーマイオニーは不意に喉が詰まったように押し黙った。一瞬、お互いいがみあっていた頃に戻ったみたいだった。僕はその時不覚にも勝った、と思ってしまったのだ。
「……そうね、あなたとパーキンソンもそうですものね!」
 手早く鞄に本や羊皮紙を詰めだした彼女に、しまったと思った。けれど、後の祭り。ハーマイオニーは僕を振り返りもせずにいってしまった。刺々しい背中は追いかけることすら拒絶しているようだった。