ルシウス×ジニー
ロンドンの街を歩いてみようか。恋人からの誘いにジニーは胸を躍らせた。彼と会える機会は年に数えるほどしかない。会えても遠くから眺めているだけがせいぜいだったり、言葉を交わすとなると人目につかないところで、ほんの短い時間しか一緒にはいられない。
そうせざるを得ないのは分かっていた。何せ、ジニーの秘密の恋人は妻子持ちで、その上、父親の仇敵であるルシウス・マルフォイなのだ。両親に知られたら。いや、魔法界の誰かに知られただけで互いに破滅だ。嫁入り前の娘には相応しくない噂をばらまかれ、ルシウスとの別れを余儀なくされる。彼も体面を傷つけられ、二度と社交界に出入りできなくなるだろう。
けれど、マグル達の街なら、誰の目を気にすることなく振舞うことができる。
ジニーは約束の日、着慣れないワンピースに袖を通して、友達から教えてもらった流行の髪形に結い上げた。仕上げに兄から贈られた香水を振りかけ、鏡を覗き込むと、いつもとは違う自分の姿が映っていた。早くこの自分を見てもらいたいと、上機嫌で家をでた。
待ち合わせの時間には少しばかり早かったが、いってみるとそこにはすでにルシウスの姿があった。ジニーを見てもニコリともせず、ただ視線を向けて、片手を上げただけだ。そんな素っ気ない挨拶でも、久しぶりに会えた嬉しさはなくならない。飛びつくように彼の腕に身を投げだしていた。
甘えきった仕草がそう見せたのだろうか。まあ、可愛い親子ね――クスクス笑いが耳に入り、ジニーは思わず顔を上げ、辺りを見回した。雑踏の中、誰が言ったのかは分からない。ジニーはルシウスから一歩分遠ざかり、ジッと彼を見上げた。
「どうした? いきなり何をそんなに不機嫌になっている?」
「親子みたいだって。あたし達」
聞こえなかったのだろうか。それとも気にもしなかったのか。
ルシウスは肩をすくめた。
「まあ、そうだろう。君はドラコよりも一つ年下だしね。背も年の割に小さいし、もっと幼く見られても仕方ない」
「……嫌だわ」
「ジニー」
「嫌なの……あたし、もう子供じゃないのに……」
恋人なのに。親子じゃないのに…――少しでも大人らしく見えるよう、いろいろと頑張ったのに。ジニーはうなだれた。涙がでそうだった。ここで泣きだしたら、さらに子供っぽく見られる。目を瞑って、まぶたを焦がすジリジリとした熱さに耐えようとした。
肩に手を置かれたのを感じた。大きな、ルシウスの手だ。
「あと数年も経てば、そんな悩みはなくなる。そうなれば周りが騒がしくなるだろう……私としては、もう少しだけ今のままでいてほしいところだ」
目を開けた拍子に、やはり涙がこぼれてしまった。やれやれとハンカチを取りだすルシウスの首に手を回すと、それが合図とばかりに身をかがめた。背伸びして唇に唇を這わせると、ジニーはようやく笑うことができた。