リドジニギャグ詰め合わせ - 2/7

事件の陰には愛ありき

『トム。ちょっと相談があるの……聞いてくれる?』
『もろろん。どうしたの? 悩みごと? なんでも言ってごらん』
 君の悩みは全て取り除いてあげるから。そう言わんばかりに、今日もいそいそと答えるトム・M・リドルの記憶には「例のあの人」の威厳もへったくれもない。明らかな下心を含んだ甘い青少年の声音は、残念ながら日記からは伝わらない。ジニーの目に映るのはタイプ打ちされたように丁寧な字面だけだ。
『あのね……』
 何か恥ずかしい相談なのか、なかなか切りださないジニー。そんなところも可愛らしいと恋に狂った【未来の闇の帝王】はしみじみと思う。
『その、トムは誰かに好きだ……って言われたこと、ある?』
『好き? 告白ってこと?』
『う…、うん』
『ジニー、君、誰かに告白されたの?』
 はやる気持ちをどうにか落ち着かせて訊くリドル。丁寧だった筆記体が突然乱れたが、ジニーはそれに気づくどころではないらしい。
『もっ…、もう! そんなにハッキリ言わないでよ……困ってるの、どうしたらいいか』
『誰に告白されたの? ハリー・ポッター?』
『ハリーなら困らないわ……ハッフルパフの先輩。ジャスティン・フィンチ‐フレッチリーっていう人よ。ロン達と一緒にいるところを見て……その、好きになってくれたみたい……なの』
 フィンチ‐フレッチリーだと? 聞いたことのない苗字だ。おそらく……というか絶対確実にマグル出身だな。確かにジニーは天使のように愛くるしく一目惚れするのも分かる……何より、この僕がそうだったのだから。
 いや、まあ今はそんな問題じゃなかった。
 とにかく顔も魔力も超一流、加えて高貴なスリザリンの血を引くこの僕よりも数段劣った【穢れた血】が身の程をわきまえず横恋慕した。そういうことだな?
 リドルの脳内では何故かすでにジニーとのカップルが成立していた。さすが【未来の闇の帝王】、自己陶酔っぷりも堂に入ったものである。
『もちろん断ったんだよね?』
 断った、に力を込めて訊いたが、
『そ、それが……よく知らない人だし断ろうとは思ったの。でも、どうしてもつきあってほしいって……今度の休暇中、一度だけでいいから会ってくれって言われたの。真面目で優しそうな人だし……なんだか断ったら悪い気がして。どうしよう、トム?』
ジニーの心がひどく揺れているのにリドルは気づいた。
(どんな奴かは知らないが、随分と戦略を練ってきたな。ジニーは優しすぎるくらい優しい子だから、ごり押しすれば通せるだろう。そんな優しさにつけ込んで既成事実でもつくられてはたまったものじゃない)
『駄目だよ、ジニー。優しいのは君のいいところだけど、そんな軽はずみな気持ちでつきあったりしちゃ相手に失礼だよ』
 考えてることと言ってることがかなり違う。それにしても誰もが自分のような変態もとい自分の欲求に正直ではないと気づけないところから【闇の帝王】、頭の方はそこまでいいのだろうか首をかしげるところだ。
 だが、【友達】を信じきったジニーにはそれが至極まともな意見に思えたのだった。
『そう、そうよね……失礼なことよね。ありがとう、トムに話したらなんだか気持ちが軽くなったわ。ちゃんと断ってくるから』
『どういたしまして。君のこと……大好きだから、僕を頼ってくれるのは本当に嬉しいよ』
『ありがと、トム……ついでにハリーのことも……相談していい?』
 一瞬の沈黙にジニーが気づけたかどうか。七人兄弟の末っ子のジニーはおっとりしていて、あからさまなリドルの告白すら聞き流してしまう鈍感な心の持ち主だった。
 嗚呼、もしもジニー・ウィーズリーがもう少し自分に向けられる想いにも気づけていたならば、事件はあそこまで拡大しなかったに違いない。トム・リドルがホグワーツで起こした事件の数々――その標的はマグル出身者やスクイブではなく、性別・種族問わず彼女に好意を向けた相手だったのだから。

(2004/02/10)