変態エロ親父変態エロ親父変態エロ親父…――脳内にリフレインするその言葉の、なんと残酷なことでしょう。良薬口に苦し。真実は耳に痛いものです。ルシウスだって少しは自覚していたのです。自分の趣向がちょっぴり……そう、ほんのちょっぴり他人と違うことくらい。実の息子と同じ年頃の少女に恋するなんて、あまり聞いたことがありませんからね。けれど、それをよもや最愛のジニーから指摘されるとは夢にも思っていなかったのです。彼は自分の耳を疑うあまり、思わず耳かき棒代わりに勢いよく杖を突っ込んでしまい、鼓膜を破りそうになりました。ルシウスおじさんと語尾にハートがつくほど甘く優しい声で呼んでいてくれたものを、手のひらを返したかのように冷たくあしらわれてしまったのです。皆さん、ルシウスの動揺もお分かりになるでしょう。
ジニーはギャッと叫ぶルシウスに、さもおかしくてたまらないというように声を立てて笑いました。身体を震わせるたびにふわふわと髪が揺れ動きます。
「年を少しは考えなよ、おっさん。あんたみたいな親父に言い寄られたら迷惑だろ? ジニーは優しいから何も言わないけど、内心あんたのことウザイと思ってるよ」
ルシウスはハッとしてジニーを見ました。悠然と腕を組み、ツンと鼻を上げて、小生意気な目で自分を見据えている少女…――姿形は確かにジニーなのですが、何処かがジニーとは違っているように見えます。それに、この目の前の少女は今、確かに「ジニーは優しいから」と言いました。
「……君、いや、お前はジニーではないな? 一体誰だ、貴様」
問いかけに、少女はニッと笑いました。造形は確かに愛らしいジニーのものですのに、杖先に灯らせた、燃え盛る炎のような光に照らしだされ、その顔つきは不気味さを漂わせています。
「ご明察。僕はリドル。トム・リドルだ」
「ゴーストか? ジニーに取り憑いて、何を企んでいる?」
この世になんらかの未練があって留まるゴーストは、【ほとんど首なしニック】のように生者にフレンドリーな者とばかりは限りません。誰かに取り憑いて、生前果たせなかったことを成し遂げようとする者もいるのです。それが簡単に叶うようなものならばそう問題はありません。取り憑かれた側はほんの数日、何時間か自分の意識を失って、気づけば見知らぬところにいたという程度。それでゴーストは満足し、解放してくれるのですから。
けれど、未練が果たせないと分かった時、取り憑いた者を道連れにしようとする性質の悪いゴーストもいるのです。
このリドルと名乗ったゴーストが、そういったものであればジニーの身が危険にさらされることは目に見えています。
油断なく杖をかまえるルシウスに、ジニー、いいえ、リドルは微笑しました。
「さあてね、いろいろと……」
「い…、いろいろだとッ!?」
「鏡の前に立って、じ~っくりと穴が開くほどにジニーの裸身を眺めたりとか? この子の身体はとってもきれいだったよ。真っ白で、クリームのようになめらかな手触りで。湯上りにほんのり赤みが差した時なんか」
何やら【いろいろ】を思いだしているせいでしょうか。リドルの表情が恍惚としたものに変わっていきます。
「私のジニーを、汚しおって……よくも! 貴様殺す!! 絶対殺すッ!!」
リドルに【いろいろ】されているジニーの姿が目に浮かび、ルシウスは普段まるで血の気のない顔を見事な薔薇色に染めて激昂しました。自分だけの聖域を汚されてしまったように感じられたのです。
こんな小さな子供が、自分の意思を封じられて操られるままに【いろいろ】と…――ルシウスは自分も夜這いしようとしていたことなどサラリと忘れて、憤慨しました。
けれど。
「ジニーを自分の欲望の餌食にしようとしている辺り、僕と君とは同類だ。罵られる謂れはないね」
「私はジニーを愛している。全ては、ジニーへの愛ゆえだ!」
「中年親父が、愛、愛と叫ぶのってウザイよ。性欲というケダモノの本性を神聖な言葉に置き換えたりせず、もっと自分を見つめたらどうだ? 分からないなら、分からせてやろうか?」
「なっ、何を……!?」
いきなりネグリジェを脱ぎ始めたリドルに、ルシウスは面食らいました。何故って、身体はジニーのものなのですから。
ボタンを一つ、また一つと外していくごとに白い肌があらわになっていきます。すっきりとした鎖骨のラインに、谷間の影すらもない平たい胸、子供らしい丸い腹部に…――思わず唾を呑み込んだルシウスに、リドルはにんまりと笑いました。
「ほーら、分かっただろ? ジニーもかわいそうに。大好きな【ルシウスおじさん】の正体が、ただのロリコン親父だったなんて」
「大好きな……? ジニーが、そう言ったのか?」
しまった、と言わんばかりに顔を歪めたリドルに、地の底までも落ち込んだルシウスの心に一条の光が差し込みました。リドルの顔からして、それが真実であることは明らかです。
ジニーに好かれていることは確信していました。しかし、いかに恋という名の布に目隠しされ、図々しいまでに自分に都合よく物事を解釈をするルシウスといえど、現時点で大がつくほど好かれているとは思ってもいなかったのです。だって、ジニーと会ったのはまだたったの三回だけ。赤ん坊の時を除けば、たったの二回だけなのですから。
ふつふつと込み上げてきた喜びが、ルシウスを不死鳥のように甦らせました。彼はリドルの鼻先に杖をちらつかせ、
「悪霊め。さっさとジニーの中からでていくがいい。これ以上、ジニーの中に留まれば、必ずこの世から跡形もなく葬り去ってやるぞ」
「ふん……自分の力を過信しないことだな、ルシウス・マルフォイ。僕の正体を知れば、お前は必ず恐れおののき、そして後悔することになる」
リドルは吐息をつき、まぶたを閉じました。
「時間がきてしまったか……今日のところは、これまでだ」
糸が切れた操り人形のように、ふらりと宙に身体が投げだされます。ルシウスは倒れかかってきた小さな身体を抱きとめ、顔を覗き込みます。
「ジニー…? ジニーっ」
呼びかけても反応が返ってきません。ルシウスは頬を軽く叩き、身体を揺すりました。すると、ようやく「うん」と小さな呻き声が洩れました。
「ジニー、しっかり……」
「……ぁ、ルシウスおじさん? あたし…、どうして、こんなところに……」
力なく首をもたげて、辺りを見回すジニーの目が、ふと彼女自身の胸元に落ちました。リドルはどうやら幼い子供の時分に「使ったものは元通りに」という鉄則を叩き込まれなかったらしく、ジニーのネグリジェを脱がせかけたままにしていたのです。なんて破廉恥な!
「やっ、やだぁ……なんで、こんな格好……」
恥ずかしさに涙ぐみながら、ネグリジェの前をかきあわせるジニーは、幼いながらも全身から誘いかけるような色気を漂わせていました。中身が違うだけで、こうも違うものでしょうか。生ジニーはやはりイイ! ルシウスはもうすっかり悩殺され、骨抜き状態になってしまいました。
「ルシウスおじさん、どうしよう……あたし、なんだか、最近ヘンなの……気づいたら全然知らないところにいたり、裸になってたり……夢遊病、なのかな……パパに相談したら、すぐ家に連れ戻されそうで……誰にも言えなくて……」
「かわいそうに、ジニー……」
震えるジニーの肩に手を置くと、怯えるような目で見返してきました。そんな顔もルシウスにとっては激しくツボだったのですが、やはり愛する少女に強引に【ナニ】することはできません。ルシウスはなんとか欲望を抑えつけ、マントを脱ぐと、ジニーの身体を包み込んであげました。ジニーの表情が、ほんの少しだけ和らぎました。くすんと鼻をすすり、涙をこらえるように何度かまばたきします。
「ジニー。きっと、私が助けてあげよう……君の悩みを取り除いてあげるから、そんな風に泣かないでおくれ」
「……ルシウスおじさん」
「最初に会った日……私にとっては二度目だが、言ったろう? 覚えていないかな…? 君は私の運命の相手だ、愛しいジニー。君を悲しませるものは、私が剣となって、盾となって守り通したい……許してくれるかな?」
ジニーはやがてコクンと頷きました。ルシウスは「ありがとう」とささやき、彼女の額に口づけました。本当は唇にしたかったのですが、見えない恐怖に怯えるジニーが欲しているのは【恋人】ではなく【父親】のキスだと感じ取ったためです。
よほど心細かったのでしょう。その夜、ジニーはルシウスに誘われるままにこっそりと医務室に戻り、二人は枕を並べて眠りに就きました。
(2005/03/16)