続・ルシウスロリコン物語②【未完】 - 1/3

「まったく! 何を考えてるんですか、あなた達は……!!」
 早朝の医務室に雷のような怒声が鳴り響き、ジニーは飛び起きました。眠気を一瞬で消し飛ばすような凄まじい形相で仁王立ちしているマダム・ポンフリーを見て、彼女はポカンとしました。何を怒られているのか、すぐに理解できなかったのです。
「神聖な医務室でなんってことを! それも息子と同じ年頃の少女に手をだすなんて!! ルシウス、いい加減に起きなさい!! あなたに言ってるんですよ、あなたにっ!!」
 ジニーはハッとして目を移すと、なんとすぐ隣りにルシウスが眠っているではありませんか。握りしめたままのジニーの手に頬ずりをしながら微笑みを浮かべている辺り、本当に寝ているのかどうか怪しいところですが。
 ジニーはようやく昨夜のことをすっかり思いだしました。夢遊病者のように校内をさまよい歩いて、気づけば恥ずかしい姿になっていたこと。自分が何をしているのか分からない恐ろしさに震えて泣いていると、ルシウスが父親のようにキスをして慰めてくれたこと。医務室で眠っていたのは、他ならぬ彼が誘ってくれたからだということ。大きく力強い腕に抱かれたおかげで、ジニーは安心して眠りに就くことができたのです。
 いつまでも目を覚ます様子のないルシウスに、マダム・ポンフリーは声を荒らげ、布団を剥ぎ取ろうとしました。
「マダム…! 違うの、ルシウスおじさんは悪くないんです……あたしが怖かったから、おじさんに一緒にいてもらいたかったから、だから……」
 どうやら自分と一緒に眠ったせいで怒られているのだと分かり、ジニーはいてもたってもいられなくなりました。その老体の何処から声を絞りだしているのやら、石壁にヒビ入らせるほどにわめき散らすマダムに口を挟むのは非常に勇気のいることだったのですが、さすがは勇猛果敢なグリフィンドール生、ジニーはおずおずとですが言いました。
 すると、マダムの怒りの矛先はくるりと方向転換しました。
「ミス・ウィーズリー、あなたもですよ! 結婚前の女性が男性と一つのベッドで寝ているなど、体裁のいい話ではありません」
 ジニーがあまりの剣幕に文字通り縮み上がったその時。
「それは何か。私がジニーに不埒な真似を働くとでも?」
 ゆっくりと身を起こしながら、ルシウスが不機嫌そうに言いました。自分を責められている時はぐっすりと眠りこけていたくせに、ジニーが怒られるや否や目を覚ます辺り、愛の力は偉大です。
 ほんの少し乱れた銀髪を優雅にかき上げながら、マダムを一瞥するルシウス。彼はホグワーツ理事の中で一番多く寄付金を納めているので、教授達もなかなか頭が上がりません。
 しかし、マダムは相手が誰であろうとおかまいなし。全く怯んだ様子を見せません。
「その通りです、ルシウス・マルフォイ。言われなくても、よぉく分かっていらっしゃるようで!」
 どの寮にも当然ながらベッドはありますが、部屋は男女きっちりと分けられているので異性が侵入することはできません。つまり、男女の逢引に使えて、かつベッドがあるところは医務室しかないのです。
 今回の件(もちろんルシウスとジニーはただ一緒に眠っていただけです)を容認してしまえば、噂は瞬く間に生徒間に広がり、尾ひれがついて、早晩医務室は無料のラブホテルと化してしまうでしょう。
 病人達の癒しの場が、そんな汚らわしい場所に……! マダムは想像するだけでもおぞましいと逆毛を立てました。白衣の天使マダム・ポンフリーはいくら年老いようと心は乙女なのです。
 ルシウスはやれやれ、と大げさに溜め息をつきます。
「マダム、あなたは何か誤解をしておられるようだ。ジニーは我が親友、アーサー・ウィーズリーの娘。ならば私にとっても娘も同然だ。その彼女が夜に怯えているというのに、一人寂しく寝かせるなど情のない真似をできるはずがなかろう」
「おじさんっ……」
 自分の性欲を満たすためだけに添い寝しようと申しでた分際で、よくもまあ抜け抜けと言えたものだと感心しますね。しかし、ジニーにそんなことはまるで分かりませんから、彼女は感激のあまりルシウスにひしと抱きつきました。
 そのむっちりとした肌の柔らかさと弾力、そしてあたたかさ! ルシウスは今にもヨダレを垂らしそうなほど緩んだ頬を少しばかり引き締め、はずれかけた紳士の仮面をつけ直しながら、
「よく眠れたかな、ジニー? 怖い夢は見なかったかい?」
「大丈夫……だって、おじさんが側にいてくれたから」
「それはよかった。もし悪い奴に襲われるような夢を見ても、大丈夫だからね。きっとおじさんがジニーの夢の中に入って助けてあげるから」
 インキュバスさながらのセリフにマダムは頭を抱え、呻きました。ルシウスに倫理観を叩き込むのは、真っ暗闇の中、黒塗りのスニッチをつかむよりも難しいものなのかもしれません。
「……もう、いいわ。二人とも、さっさと着替えて医務室からでていきなさい! ただでさえ忙しいこの時に……まったく」
 マダムはぶつくさ言いながら、カーテンを閉めました。高らかな靴音が遠ざかっていきます。どうやら医務室をでていったようです。きっとヤケ酒……は学校内では無理なので、ヤケ食いでもしにいったのでしょう。お気の毒に。
 さて、とルシウスは自分の腕の中にいるジニーに視線を落としました。邪魔者が消えたことですし、ジニーの中から昨夜の恐怖は消えています。このまま、うまい具合に誘導していけば、念願だったジニーの何もかもを手に入れることができるかもしれないと短絡的に考えました。
 落ち着け、ルシウス! まずはキスだ……頬から滑らすようにして、さりげなく唇まで。で、背中に回した片手を前に……いや、ローブの前は手よりも口で開けた方が母性本能をくすぐるかもしれん…。
 自分よりも遥かに年下の少女の母性本能をくすぐろうとしている辺り、ルシウスは多分はじめて恋を知った少年なみにガチガチに緊張してマトモに考えることができなかったのでしょう。
 考え込みながらブツブツ言っているうちに、
「大変、もう六時だわ! おじさん、早く着替えなきゃ、皆起きちゃうわっ。あたし、外にでてるから」
 ジニーは名残惜しむことなく、サッとカーテンの外にでていってしまいました。ああ、私の意気地なしーっとルシウスは心の中で何度も叫びましたが、後の祭り。
 しぶしぶナイト・ローブを脱いだその時です。
「きゃああっ!!」
 カーテンの外から、他ならぬジニーの叫び声が響きました。
「ジニー、どうした!?」
 ルシウスは着かけていたローブを放り投げ、飛びだしました。
「おじさ…――やッ!!」
 ジニーは痴漢といわんばかりに声を張り上げて、両目を覆い隠しました。そりゃー、そうです。何せ、ルシウスはパンツ一丁だったのですから。
 自分の格好を思いだして、慌ててローブを拾い上げてはおると、ルシウスは床に座り込んだジニーを抱き起こしました。
「どうしたんだね、ジニー」
「カ、カーテンを開けてみたの……そこのベッドの……そしたら」
 ジニーの視線を追って、閉ざされたカーテンを開けると、ルシウスはハッと息を呑みました。
 ベッドに横たわっているのは少年でした。何か恐ろしいものでも見たかのようにカッと目を見開いて、両手を前に突きだしています。顔を覗き込んでも身動きどころか、まばたき一つしません。
「……コリン。呪文学であたしの隣りの席だった子なの……」
ガタガタと震えながら、ジニーがつぶやきました。