昔々あるところに二人の少年がいました。燃える炎のように赤い髪をしたアーサー・ウィーズリー。流れる水の如き透き通った銀髪のルシウス・マルフォイ。二人はホグワーツという学校で出会い、互いに惹かれあい、やがて永遠の友情を誓うまでに親しくなりました。
卒業後、二人はそれぞれに家庭を持ちましたが温めた友情は変わらず、妻や子供を交えて交友を育みました。
そんなある時のことです。アーサーとその妻モリーの間に玉のように可愛らしい赤ん坊が生まれました。アーサーの喜びはいかばかりのものだったでしょう。何せ、これまでモリーが産んだ子供は六人。皆それぞれに愛らしい男の子だったのですが、今度の赤ん坊は初めての女の子なのですから。
アーサーは早速親友に連絡しました。ルシウスは我がことのようにその報せを喜び、祝い品を片手にいそいそとウィーズリー家にでかけていきました。
悲劇はそこで起こったのです。
ルシウスは久々に会う親友に挨拶を交わすと、揺りかごに眠る赤ん坊に近づいていきました。
「ジニーと名づけたんだ。世界一可愛いだろ?」
アーサーは嬉しそうに言います。親馬鹿な言葉だと思う方もいらっしゃるでしょう。でも、赤ん坊は本当に可愛らしかったのです。
陶器のように白い肌にまるまるとした体つき。パッチリと開いた目は吸い込まれるようで、ルシウスは目を逸らすことができませんでした。あまりの愛らしさにルシウスは無意識のうちに手を伸ばしました。すると赤ん坊は小さな手でルシウスの指を握り、にっこりと笑ったのです。頬には可愛いえくぼが浮かんでいます。
「アーサー」
くるりと親友を振り返って、ルシウスは言いました。あまりに真剣な顔つきにアーサーは戸惑います。
「どうしたんだ、ルシウス?」
「一生のお願いだ! ジニーを私にくれ!! この愛らしさ……女の子がこんなに可愛いものだったとは! ドラコも可愛かったが、この子は……ああ、こんな奇跡がこの世にあるとは思わなかった!」
「お…、おいおい、ルシウス、馬鹿なことを言うのはよせ! ジニーは物じゃないんだぞ」
「無論承知! お願いだ、アーサー、私はジニーがどうしてもほしいんだ! 妻……は無理だったな、いや、妾という手があったか! 大切にするから!!」
「め、妾っ!? き、貴様何言ってやがる、人様の大事な娘をつかまえて!」
それからの二人の話し合いは話などと言えるものではありません。アーサーは当然のことながらルシウスの考え方に大怒り。ルシウスはといえばよほどジニーに心を奪われているのでしょう。普段の冷静さをかなぐり捨てて、アーサーを分からず屋と罵っています。
そうして仲のよかった二人の仲は覆されてしまったのです。ルシウスが冷静ささえ失わず、妙なことを口走りさえしなければ、二人の間の友情は今なお続いていたのかもしれません。争いの火種になったジニーは何も分からず、揺りかごに揺られて眠りに就いてしまいました。