続・ルシウスロリコン物語① - 2/5

 皆が続々と城に戻っていく中、ルシウスは流れに逆らうようにクィディッチ競技場をグルリと囲んでいる生徒用の観客席の方へと向かいました。長いマントをはためかせながら早足で行き過ぎる彼に、すれ違う生徒達が何事だろうと振り返ります。教員でもない大人がホグワーツ内にいるのはとても珍しいのです。
 ジニーは一体何処にいるのだろうと忙しなく目線を動かしていると、ドン! 何かが身体に当たり、キャッと悲鳴が上がりました。
 ルシウスの目の前には小さな女の子が倒れていました。自分の不注意で転ばせてしまったことに気づき、彼は助け起こそうと手を伸ばしました。
「すまない、大丈……ジニー?」
「ルシウスおじさん?」
 なんという偶然でしょう。顔を上げ、つぶらな瞳をまたたいているのはジニー・ウィーズリーでした。転んだ拍子に打ったのか、はだけたローブから覗く白い膝にはくっきりとしたアザがありました。痛そうに撫でさするジニーを見るとムラムラと欲望が燃え上がり、ルシウスは理性を総動員しなければなりませんでした。
「すまなかった、私の不注意だ。大事ないだろうか? 歩けるかな?」
 歩けないのなら念願のお姫さま抱っこができる! そんなことを思っているとは露ほども見せずに紳士ヅラで言うルシウスにジニーは微笑み、差しだされた手を取りました。
「大丈夫。あたしの方こそ、ごめんなさい。おじさんは怪我してない?」
「いや。私は平気だよ」
「そう、よかった。でも、どうしてこんなところに……あっ」
「どうしたんだね?」
「日記…! 今ので落としちゃったのかしら……」
 ジニーはキョトキョトと周りを見回し、四つん這いになって椅子の下の隙間を覗き込みました。
「よかった、あったわ!」
 ジニーは立ち上がり、汚れてしまったローブをはたきました。片手にはしっかりと黒いノートが握られています。ルシウスはそれが何かすぐに分かりました。しなやかな黒の革張りで、四隅には金の細工が施された古くさいけれど立派な日記帳。何せそれをジニーにあげた張本人なのですから。
 ジニーは食い入るような視線に気づき、にこりと笑いました。
「あのね、これはあたしのお友達なの。あたしが何か話しかけたら返事を返してくれるのよ。いつの間にか大鍋の中に入ってて……きっと友達がいなくて不安なあたしに妖精さんがプレゼントしてくれたんだわ。
 あっ、パパにはナイショよ。だって、この日記帳の中に住んでるのは男の子だから……フジュンイセイコウユウだって怒られちゃう」
「ああ、約束するよ」
 ルシウスの答えに、ジニーはホッとしたようでした。
 それにしても男の子と親しくするだけで不純異性交遊だと叱るのは少々厳しすぎるとお思いになるでしょう。しかし、アーサー・ウィーズリーの名誉のために言っておくと、全てはジニーのためなのです。元親友のように赤ん坊の頃にさえも求愛しようという男がいたくらいなのですから、愛娘を魔の手から守るためにはいくら警戒してもしたりないくらいだったのです。
 宝物のように日記帳を胸に抱くジニーに、ルシウスは幸せいっぱいな気分に浸りました。自分の贈った物がそれほどまでに気に入られていると知り、それをプレゼントしたのは他ならぬ自分なのだと打ち明けたい衝動に駆られましたが、ジニーの小さな夢物語を壊すのは気が退けるので口をつぐんでいることに決めました。
「ねえ、おじさんはどうしてここにいるの? 学校は関係者以外立ち入り禁止だって聞いてたけど」
「私は理事だからね。今日は仕事の関係できたのだが、息子が出場していることだし、試合を観戦するのも悪くないと思ったのだよ」
 むしろ仕事を建前にジニーに会いにきたのですが、他人を疑うことを知らないジニーはあっさりと信じました。
「じゃ、おじさんは医務室にいこうとして道に迷ったのね。ドラコ、箒から落ちちゃったから心配でしょ。案内してあげるわ。あたしもハリーをお見舞いにいこうと思ってたから」
「ハリー? ああ、この前本屋で会った……ポッター君だね」
 自分から握手までしたくせにルシウスは彼の顔がさっぱり思いだせませんでした。ジニーはこっくり頷きました。
「ハリーも試合の後に医務室に運ばれたの。遠くからじゃよく分からなかったけど、なんだか心配で……」
 なんだと!? 恋路を邪魔するのはアーサー・ウィーズリーだけじゃなかったのか。とんだ伏兵がいたものだ、皆ケンタウロスに蹴られて死んでしまうといいのに――ルシウスは顔をしかめて黙り込みました。それをジニーは息子を心配して険しい顔をしているのだと思い、おずおずと手を取りました。
「おじさん、大丈夫よ。マダム・ポンフリーは優秀な校医だって言われてるもの。ドラコもきっと助かるわ」
 もはや怪我をした息子のことなどすっかり頭から抜け落ちていたルシウスでしたが、励ますようにそう言われ、弱々しい笑みを浮かべました。
「ありがとう、ジニー。君は本当に優しい子だ。その優しさにつけ込むようだが……一つ、お願いしてもいいかな?」
「なあに?」
「不安でたまらなくて……このまま手を握っていてくれないかな?」
 もちろんジニーの小さな手の感触を味わっていたいがための口実です。ジニーは励ますように強く握りしめました。
「おじさん……きっときっと大丈夫だから。急いでいきましょ」
 二人は手と手を取りあって駆けていきました。運悪くその場に居合わせた生徒は後日駆け落ちのようだったと触れ回ったそうな。