続・ルシウスロリコン物語① - 1/5

 ある晴れた日のこと、ホグワーツではグリフィンドール対スリザリンのクィディッチ試合が行なわれていました。管理人フィルチの猫が石化させられるという恐ろしい事件が起こって以来、生徒達の間には緊張感が漂っていました。そのため寮対抗試合の開幕戦となるこの試合、選手も観客もいつも以上に力を込めて臨んでいました。
 高台の観客席には、ワールドカップを観戦する時のように万眼鏡を覗いた男がいました。不思議なことに周囲の教員達がプレーを追って視線を右往左往させる中、万眼鏡を持った彼はある一点を見たままピクリとも動きません。そして何やらぶつぶつとつぶやいています。
「ああ、なんと素晴らしい……まさに文明の利器だな。何度でもあの愛らしい顔をリピートできるとは」
 観客席がドッと沸きました。なんとスリザリンのシーカーが箒から吹き飛ばされ、地面に叩きつけられてしまったのです。教員達も一斉に立ち上がり、不安げな声をささやき交わします。けれど、万眼鏡を持った彼はやはりそのままです。
 隣りにいたスリザリン寮監スネイプは憤怒の鼻息と共に彼の手から万眼鏡を奪い取り、声を荒げました。
「ルシウス! 一体何をしているのです、ご子息が怪我をしたというのに!!」
 血の気のない顔が興奮のあまり無気味なオレンジ色に近くなっています。生徒達が皆縮み上がるスネイプの怒りの形相でしたが、彼――ルシウス・マルフォイは動じないばかりかひどく不機嫌に睨みつけました。
「折角いいところだったのに何をする! セブルス、返したまえ、さあ!!」
「いいところとはなんです、いいところとは! あれだけ派手に落ちたのだ、骨折をしているかもしれませんぞ。運が悪ければ障害が残らぬとも限らない」
「何、ドラコが…?」
 ざわつきも耳に入らないほど集中していたらしく、ルシウスはチラと遥か下の地面を見下ろしましたが、救護班が駆けつけてくるのを見ると、スネイプの手から万眼鏡を取り返して素っ気なく言い放ちます。
「今はそれどころではない」
「今は……って、ルシウス、あなたはさっきから何を熱心に見ているのです!? 試合を観戦したいのではなかったのですか? だからこそ特別にこの席までお連れしたのですが」
「ジニーだ」
「は?」
 スネイプは訊き返しました。それがなんなのか、それとも誰なのか咄嗟に思い浮かばなかったのです。ルシウスは万眼鏡を巻き戻しつつ観客席に目を向けました。
「未来の私の花嫁といった方がいいか。愛しのジニーを見にきたのだ」
 ジニー? スネイプは自分の受け持った生徒の中からジニーという名の生徒を思い浮かべていき、該当者がたった一人しかないことに気づきました。
「まさか……ジニー・ウィーズリーのことでは」
 学生時代ルシウスと大層仲のよかったアーサー・ウィーズリーの末娘です。ルシウスの後輩であるスネイプは彼らが仲違いしたことは聞いていましたが、詳しい事情までは知りませんでした。
 ルシウスはあっさりと頷きます。
「そうだ。セブルス、なんて顔をしている」
「あ、あなたという人は…! 親友の娘に手をだす人間がいますか! いくつ年が離れていると思っているのですか!? 大体あなたには奥さまがいらっしゃるでしょうが!! ドラコという立派な息子も!!」
「そんなものが恋愛の妨げになるとでも?」
 ルシウスはのんびりと言いました。万眼鏡で覆い隠された目元は分かりませんが、緩んだ口元がとても幸せそうに見えて、スネイプはガックリと肩を落としました。何処の世界に自分の妻子をそんなものと片づける男がいましょうか。
 グリフィンドールの勝利が宣言された瞬間、ルシウスは駆け足で何処かにいってしまいました。スネイプとの会話を聞いていなかった幸運な人々は、父親らしく怪我をした息子の元に駆けつけたのだと思うでしょう。しかしスネイプには分かっていました。彼が駆けつけていった先はジニー・ウィーズリーなのだと。
 これまで何不自由なく幸福な暮らしを送っていると思っていたマルフォイ一家――主にナルシッサとドラコの胸中を察し、スネイプはハラハラと涙をこぼしました。